
「また喧嘩になってしまった」
「ちゃんと話し合いたいのに、いつも責め合いになってしまう」
「お互いに理解し合いたいと思っているのに、なぜかすれ違う」
実は、こうした繰り返される喧嘩には、ふたりの間で生じている心理的なパターンが関係していることがあります。この記事では、パートナーとの喧嘩が繰り返される心理的な仕組みと、悪循環から抜け出すための3つのヒントを、公認心理師が解説します。
大切なのはどちらが悪いかを決めることではなく、ふたりの間で何が起きているのかを理解すること。
この記事でいう「パートナー」について
この記事では、法律上の夫婦だけでなく、事実婚や交際中のカップル、同性のパートナー同士など、婚姻の有無や性別、性的指向、性自認にかかわらず、親密な関係にあるおふたりを対象としています。
同じ喧嘩が繰り返されるのは「性格」より「パターン」の問題🔍
喧嘩が続くと「相手の性格が悪い」「言い方が悪い」と、どちらかに原因を探したくなります。
カップルセラピーでは、こうした関係のすれ違いを、個人の性格だけではなく「ふたりの間で繰り返されるパターン」として捉える考え方があります。
例えばパートナーから「掃除を手伝ってほしい」と言われたとします。
その言葉を「自分ばかり責められている」と受け取る場合もあれば、「相手も疲れていて助けを必要としている」と受け取る場合もあるでしょう。
同じ言葉でも、これまでの経験やそのときの感情、ふたりの関係によって受け取り方は変わります。
そして、その受け取り方が次の言葉や行動に影響し、相手の反応を引き出していきます。
つまり、問題は喧嘩のきっかけだけでなく、その後に続くやり取りの中にもあるのです。
「責める」と「離れる」の悪循環🔄
カップルの喧嘩で見られるパターンの一つに、一方が強く訴え、もう一方が黙ったり、その場を離れたりする関係があります。
心理学では「要求―回避パターン(Demand–Withdraw Pattern)」と呼ばれ、夫婦関係の研究でも取り上げられています。
訴える側の心の中💬
相手に強く気持ちを伝えようとする人の心には、次のような思いがあるかもしれません。
- 「ちゃんと向き合ってほしい」
- 「私の気持ちを分かってほしい」
- 「どうして何も言ってくれないの?」
- 「このままだと関係が壊れてしまいそうで怖い」
相手が黙るほど「分かってもらえない」という気持ちが強くなり、言葉がさらに厳しくなることがあります。
本人は相手を責めたいというよりも、理解してほしい、向き合ってほしいという気持ちを抱えている場合があります。
離れる側の心の中🌀
一方、黙ったり距離を取ったりする人の心には、次のような思いがあるかもしれません。
- 「何を言っても責められる」
- 「どう答えればいいのか分からない」
- 「これ以上言い合うと、もっとひどくなる」
- 「とにかく今は落ち着きたい」
相手の言葉が強くなるほど、緊張や無力感が高まり、黙り込んだり、その場を離れたりすることがあります。
こうした反応は、必ずしも相手を無視したいという気持ちから生じるわけではありません。自分自身の感情を落ち着かせたり、これ以上の衝突を避けようとしたりする反応である場合もあります。
お互いの反応が悪循環を生み出す🤝
訴える側が強く言うほど、離れる側は距離を取る。離れる側が距離を取るほど、訴える側はさらに不安になり、強く訴える。
こうして、お互いの行動が相手の反応を引き出し合い、悪循環が続いていきます。
ここで大切なのは、必ずしもどちらか一方に悪意があるとは限らないということです。
訴える側は「もっと分かり合いたい」、離れる側は「これ以上傷つけ合いたくない」と感じている場合もあります。
しかし、その気持ちを表現する方法が噛み合わず、結果としてお互いを傷つけてしまうのです。
ただし、すべての喧嘩がこのパターンで説明できるわけではありません。相手を意図的に傷つけたり、支配したりする行動については、別の視点から考える必要があります。
なお、訴える側と離れる側の役割は、いつも同じとは限りません。
例えば、家事の問題では一方が強く訴えていても、お金の問題になると立場が逆転することもあります。
大切なのは、どちらが「責める人」「逃げる人」なのかを決めることではなく、ふたりの間でどのようなやり取りが繰り返されているのかに気づくことです。
怒りの奥には、どんな気持ちがあるのだろう?💭
パートナーとの喧嘩では、怒りが表に出ていても、その奥に別の気持ちが隠れていることがあります。
例えば、「どうして私の話を聞いてくれないの?」と強く訴えるとき、その背景には「大切にされていないようで寂しい」「もっと自分のことを理解してほしい」という気持ちがあるかもしれません。
一方で、怒りは必ずしも不安や寂しさから生まれるわけではありません。
「自分ばかりが家事を負担している」「約束を何度も破られた」といった、不公平感や自分の大切にしていることが尊重されない経験から生じることもあります。
つまり、怒りそのものを否定する必要はありません。
大切なのは「私は何に傷ついたのだろう」「本当は相手に何を伝えたいのだろう」と、自分自身の気持ちに目を向けることです。
そして、相手の怒りにも何らかの理由があるかもしれないと考えることが、すれ違いを理解する手がかりになります。
ただし、相手の怒りを理解することと、暴言や威圧的な行動を受け入れることは別です。
過去の人間関係が影響することもある
私たちは、これまでの人間関係を通して、人との距離の取り方や感情の表現方法を学んできました。
例えば、
- 相手との距離が離れると、強い不安を感じやすい人
- 相手から強く気持ちを求められると、どう応えればよいか分からなくなる人
- 困ったときでも、人に頼ることが苦手な人
など、親密な関係での反応には個人差があります。幼少期の養育環境や過去の人間関係が、現在のパートナーとの関わり方に影響している場合もあります。
ただし、喧嘩の原因がすべて過去にあるわけではありません。
仕事のストレス、家事や育児の負担、経済的な問題、睡眠不足など、現在の生活環境も関係します。
「育った家庭が悪かったから」「自分には愛着の問題があるから」と決めつける必要はありません。
過去の経験も含めて自分自身を理解しながら、いまの関係で何が起きているのかに目を向けることです。
📌 大人になってからの安心感の育て方については、こちらの記事も参考にしてください。
▶ 安心感は大人になってからでも育てることができる
喧嘩のとき、心と身体で起きていること🫀
口論が激しくなると、心臓がどきどきする、呼吸が浅くなる、頭が真っ白になる、身体がこわばるといった反応が起きることがあります。
これは、強いストレスや脅威を感じたときに生じる身体の反応です。
私たちの身体には、危険に対応するための仕組みが備わっています。相手の言葉を脅威として受け取ると、身体が緊張し、すぐに反応できる状態になることがあります。
こうした状態では、相手の言葉を落ち着いて受け取ったり、自分の気持ちを整理して伝えたりすることが難しくなります。
「あとから考えると、なぜあんなことを言ってしまったのだろう」
「本当はそんなことを言いたかったわけではないのに」
と感じる背景には、こうした心と身体の反応が関係している場合があります。
喧嘩の最中には、自分を守ろうとする気持ちが強くなる
私たちの心には、さまざまな気持ちが同時に存在しています。
例えば、パートナーと喧嘩しているときにも、「分かってほしい」という気持ちがある一方で、「これ以上傷つきたくない」「自分を守りたい」という気持ちが生じることがあります。
そのため、本当は仲良くしたいと思っていても、つい強い言葉で反論したり、相手を避けたりすることがあります。
このようなときは、すぐに結論を出そうとするよりも、まず自分の心と身体を落ち着かせることが大切です。
少し落ち着いてから、「あのとき、自分は何を感じていたのだろう」と振り返ることで、自分の本当の気持ちに気づきやすくなることがあります。当の気持ちに気づいたり、相手の言葉を違う角度から受け取ったりしやすくなることがあります。
悪循環から抜け出すための3つのヒント💡
繰り返される喧嘩を変えていくためには、相手を変えようとするだけでなく、ふたりの間で起きていることに気づくことが大切です。
ここでは、日常生活の中で取り入れられる3つの方法をご紹介します。
① 「誰が悪いか」から「何が起きているか」へ
喧嘩をしているときは、どうしても相手の言動に意識が向きやすくなります。
「あなたがいつもそうだから」
「そっちが先に言ったんでしょう」
このようなやり取りになると、お互いに自分を守ろうとして、話し合いが難しくなります。
そこで、少し落ち着いたときに、ふたりの間で繰り返されているパターンを振り返ってみましょう。
例えば、
「私が強く言うと、あなたは黙ってしまうね」
「あなたが黙ると、私は余計に不安になってしまうみたい」
といった具合です。
「いつもの追いかけっこが始まったね」など、ふたりでパターンに名前をつけることも一つの方法です。
相手を問題にするのではなく、繰り返されるパターンを、ふたりで向き合う課題として捉えることがポイントです。
② 熱くなったら、いったん休憩する
感情が高ぶっているときに話し合いを続けると、言葉が強くなったり、相手の話を十分に聴けなくなったりすることがあります。
そのようなときは、無理に話し合いを続けず、いったん休憩することも大切です。
例えば、
「今は少し感情的になっているから、30分くらい休んでから話そう」
と伝えてみましょう。
30分という時間はあくまで目安です。気持ちが落ち着くまでに必要な時間には個人差があります。
ポイントは話し合いを一方的に終わらせるのではなく、落ち着いたら再び話し合う意思を伝えることです。
もし約束した時間になっても気持ちが落ち着かない場合は、そのことを相手に伝え、改めて話し合う時間を決めてもよいでしょう。
何も言わずに立ち去ると、相手は「無視された」「見捨てられた」と感じてしまう場合があります。
休憩中は、相手への反論を考え続けるのではなく、自分の心と身体を落ち着かせることを優先しましょう。
ゆっくり息を吐く、外の空気を吸う、静かな場所で過ごすなど、自分に合った方法を取り入れてみてください。
ただし、相手から暴力や脅しを受けている場合は、話し合いに戻ることよりも、ご自身の安全を優先してください。
📌 身体を落ち着かせる方法については、こちらの記事も参考にしてください。
▶ 呼吸法について
③ 怒りではなく、奥にある気持ちを伝える
怒りを感じること自体は、悪いことではありません。
怒りは、自分にとって大切なものが傷つけられたり、望んでいることが満たされなかったりしたときに生じる自然な感情です。
ただし、怒りをそのまま相手にぶつけると、相手も防御的になり、悪循環が強まることがあります。
そこで、怒りの奥にある気持ちを、「私」を主語にして伝えてみましょう。
例えば、次のような言い換えが考えられます。
「どうしていつも話を聞かないの?」
↓
「話を聞いてもらえないと、ひとりぼっちのように感じて寂しい」
「もういい、勝手にして」
↓
「このままだと関係が悪くなりそうで、私も怖い」
「何回言えば分かるの?」
↓
「私も余裕がなくなっているから、少し協力してもらえると助かる」
最初はぎこちなく感じるかもしれません。また、気持ちを丁寧に伝えたからといって、必ず相手が理解してくれるとは限りません。
それでも、自分の本当の気持ちに気づき、言葉にしていくことは、関係を見つめ直す大切な一歩になります。
子どもへの影響が気になる方へ🌱
子どもがいる家庭では、「夫婦喧嘩を見せてしまって大丈夫だろうか」と心配になる方も多いと思います。
研究では、両親の間で激しい対立が続くことは、子どもの心理的な安定や適応に影響する可能性があると指摘されています。
特に、激しい言い争いや威圧的な言動が繰り返される環境では、子どもが不安や緊張を感じることがあります。
一方で、夫婦の意見が異なることや、意見をぶつけ合うこと自体が、必ずしも問題になるわけではありません。
大切なのは、子どもが安心して生活できる環境を保つことです。
意見が対立したあとに、落ち着いて話し合い、相手を尊重しながら問題を解決する姿を見せることは、子どもが人間関係を学ぶ機会にもなります。
また、子どもの前で激しく言い争ってしまった場合には、
「さっきは大きな声で話してしまったね」
「あなたのせいではないよ」
と伝えることも大切です。
子どもに仲裁役を担わせたり、どちらかの味方になるよう求めたりしないようにしましょう。そして、家庭内での激しい対立を繰り返さないための取り組みも必要です。
子どもが不安を感じている場合には、その気持ちを否定せず、安心して話せる時間を持つことも大切です。なお、暴力や強い威圧がある場合は、関係修復の話し合いよりも、安全を確保することが優先されます。
ふたりだけで抜け出すのが難しいときは🛋️
繰り返される喧嘩は、一度パターンが定着すると、ふたりだけで変えていくことが難しい場合があります。
お互いに「自分の方が分かってもらえていない」と感じていると、相手の言葉を落ち着いて受け取ることが難しくなるためです。
そのようなときは、第三者である心理の専門家に相談することも一つの方法です。
カップルカウンセリングでは、カウンセラーが一方的にどちらかの味方になるのではなく、おふたりの気持ちや関係の中で繰り返されているパターンを一緒に整理していきます。
目指すのは、必ずしも関係を修復することだけではありません。
これからも一緒に歩んでいくのか、距離を置くのか、別々の道を選ぶのか。どのような選択をする場合でも、ご自身の気持ちを大切にしながら、納得できる方向を考えていくことを支援します。
また、パートナーがカウンセリングに乗り気ではない場合には、おひとりでのご相談から始めることも可能です。
プラスワンライフのカップルカウンセリング
プラスワンライフでは、公認心理師による夫婦カウンセリング・カップルカウンセリングを行っています。
沖縄県浦添市のカウンセリングルームでの対面相談に加え、全国からオンラインでご相談いただけます。婚姻の有無や性別、性的指向、性自認にかかわらず、ご相談いただけます。
- 「関係を修復したい」
- 「お互いの気持ちを理解したい」
- 「今後の関係について考えたい」
そのようなお悩みを、おふたりのペースを大切にしながら一緒に考えていきます。
📌 カップルカウンセリングの内容・料金・ご相談の流れについては、こちらをご覧ください。
▶ 夫婦カウンセリング・カップルカウンセリング
安全に関するご案内
身体的な暴力、脅し、行動や金銭の過度な制限などがあり、パートナーの前で安心して話すことが難しい場合は、同席でのカウンセリングが適さないことがあります。
そのような場合は、まずご自身の安全を優先し、必要に応じて専門の相談窓口をご利用ください。
- DV相談ナビ:#8008
- DV相談+(プラス):0120-279-889(24時間電話受付)
- 緊急の危険がある場合:110番
おわりに🌿
同じ喧嘩を繰り返していると、「私たちは相性が悪いのかもしれない」「もう分かり合えないのではないか」と感じることがあるかもしれません。
しかし、繰り返される喧嘩の背景には、お互いの気持ちの伝え方や受け取り方、これまでの経験など、さまざまな要因が関係していることがあります。
意識したいのはどちらか一方を責め続けることではなく、ふたりの間で何が起きているのかを理解すること。
そして何より、関係を続けることだけが正解ではありません。
ご自身の気持ちや大切にしたいことを見つめながら、これからの関係を考えていくことも、大切な選択です。
ひとりで抱え込まず、必要なときには専門家の力を借りることも考えてみてください。
よくあるご質問(FAQ)❓
- Qパートナーと同じ喧嘩を繰り返すのは、相性が悪いからでしょうか?
- A
同じ喧嘩を繰り返すからといって、必ずしも相性が悪いとは限りません。
喧嘩の背景には、お互いの気持ちの伝え方や受け取り方、これまでの経験などが関係していることがあります。
大切なのは、相性だけで判断するのではなく、ふたりの間でどのようなやり取りが繰り返されているのかを理解することです。
- Q喧嘩になるとパートナーが黙ってしまいます。どうすればよいでしょうか?
- A
喧嘩の最中に黙ってしまうのは、必ずしも相手を無視しているからとは限りません。
何を言えばよいか分からなかったり、感情が高ぶって言葉にできなかったりする場合もあります。
無理に返答を求めるよりも、いったん時間を置き、お互いが落ち着いてから話し合うことが役立つ場合があります。ただし、沈黙によって相手を意図的に傷つけたり、支配したりする場合は、別の対応が必要です。
- Q喧嘩を減らすためには、どちらかが我慢するしかないのでしょうか?
- A
どちらか一方が我慢し続けることは、根本的な解決につながらない場合があります。
一時的に喧嘩が減ったとしても、不満や寂しさが積み重なることがあるためです。
お互いの気持ちや考え方の違いを認めながら、無理のない伝え方や折り合いのつけ方を探していくことが大切です。
- Qパートナーとの喧嘩には、幼少期の家庭環境も関係するのでしょうか?
- A
幼少期の家庭環境や過去の人間関係が、現在のパートナーとの関わり方に影響することはあります。例えば、過去に強く叱責された経験があると、相手の厳しい口調に敏感になる場合があります。
ただし、すべての喧嘩が幼少期の経験によって説明できるわけではありません。仕事のストレスや生活環境、現在の関係性なども影響します。過去の経験だけに原因を求めず、今のふたりの関係を理解することが大切です。
- Qパートナーがカウンセリングを嫌がる場合、自分ひとりでも相談できますか?
- A
はい、おひとりでもご相談いただけます。
パートナーがカウンセリングに乗り気ではない場合でも、ご自身の気持ちを整理したり、繰り返される喧嘩のパターンを振り返ったりすることは可能です。カウンセリングは、必ずしも関係を修復するためだけのものではありません。これからの関係について、ご自身が納得できる選択を考える場としてもご利用いただけます。
- Qどのような状態になったら、カップルカウンセリングを受けた方がよいのでしょうか?
- A
同じ喧嘩を何度も繰り返している、話し合おうとしても感情的になってしまう、お互いの気持ちが分からなくなっているといった場合には、カウンセリングが役立つことがあります。
深刻な問題になってからでなければ相談できない、ということはありません。
ただし、暴力や脅し、強い支配関係がある場合には、おふたりでのカウンセリングよりも、安全の確保や個別の専門的な支援を優先する必要があります。
参考文献・出典📚
- Christensen, A., & Heavey, C. L. (1990). Gender and social structure in the demand/withdraw pattern of marital conflict. Journal of Personality and Social Psychology, 59(1), 73–81.
- Johnson, S. M. (2019). Attachment Theory in Practice: Emotionally Focused Therapy (EFT) with Individuals, Couples, and Families. Guilford Press.
- Cummings, E. M., & Davies, P. T. (2010). Marital Conflict and Children: An Emotional Security Perspective. Guilford Press.
- アリエル・シュワルツ『複雑性PTSDの理解と回復』金剛出版、2023年。
- 福井義一『自我状態療法実践ガイド』岩崎学術出版社、2022年。


