トラウマ体験は、誰にでも起こり得るものであり、「自分だけが弱いから」と責める必要はありません。むしろ、心が正常に反応している証拠です。多くの方がトラウマに悩みながらも、適切なサポートや治療によって回復を目指せます。
トラウマとは何か?
トラウマ(心理的外傷)とは、強い恐怖や無力感を感じた出来事によって、心や身体に深い影響が残る状態のことです。
たとえば、交通事故、虐待、災害、犯罪被害、いじめ、失恋、突然の別れ――こうした出来事は、誰にとってもつらい体験ですが、その影響が長く残り、日常生活にも支障をきたすことがあります。これが「トラウマ反応」と呼ばれるものです。
トラウマの体験は、今では毎年何百万人もの人間に起こっている事が分かっていますが、一般的にトラウマは「過去のものである」という誤解があります。トラウマは時間がたっても消えることはありません。トラウマ的出来事が終わっても、その人の中ではまだ終わっていないという事なのです。
その人の症状に「隠されたトラウマ」を見つけていくことが肝心で、それに気づかずに薬だけを何年ももらい続けている方は多くいらっしゃいます。
自分自身が体験するだけでなく、身近な人の体験を目撃したり、耳にした場合もトラウマとなることがあります。
トラウマの症状
トラウマによって引き起こされる症状は、人によって異なりますが、一般的には以下のようなものがあります。トラウマの影響は、こころにも身体にも現れます。

心身の不調にトラウマが影響していることは非常に多くみられます。
さらに不安障害やうつ病、双極性障害をはじめ、ADHDや強迫性障害などとも混同されがちですが、これらはトラウマからくる反応であることも考えられます。
誤診だと気づかれないケースは多く、服薬や通院を長年続けても一向に改善しなかったり、改善と悪化を繰り返す場合は注意が必要です。しっかり治療目標について話し合いましょう。
私のトラウマ体験
1.感情に敏感で不安定になりやすい
「人の言葉や態度のちょっとした事が気になって、ずっとその事を考えてしまう」
感情を否定されたりした場合、自分の感情をどう扱えばよいのか分からなくなりやすいです。その敏感さは過去のトラウマ体験による事も少なくありません。敏感さや細やかさは長所でもある一方で、ときに誤解や不信につながる事もあります。いざ感情が高ぶったときにうまくコントロールできなくなったり、爆発的に表出してしまうことがあります。
2.安定した対人関係を築くのが困難
「他者と一緒にいても安全が感じられない」
過去のつらい体験がトラウマとなり、それが原因で人を信用できなくなったり対人関係が不安定になったりします。そのような負のスパイラルが生じ、他者と距離を置くことによりトラウマ反応をきたす状況を回避していることもあります。本人自身もトラウマに気付いていなかったり、それは軽いものであると考えたりします。
3.断ることができない
「相手の期待や要望にムリして合わせてしまう。自己主張ができない」
たとえば、子どもの頃に親や大人の期待や要求を断ることで、怒られたり、無視されたり、仲間外れにされた経験があると、「断る=危険」「断ると嫌われる」といった恐怖感が心に根付いてしまいます。また、自分の意見を尊重されず「言っても無駄」と感じる体験を重ねると、自己主張をあきらめるパターンが身についてしまうこともあります。
感情の不安定さや抑うつ状態が一定の期間(数か月~1年)のうちに回復してこない場合は、背景にトラウマ症状が潜んでいないかに意識を向けてみましょう。
生理学的メカニズム
トラウマを受けた人は自律神経系の覚醒をうまく調整できず、極端な過覚醒と極端な低覚醒の間を激しく往復します。交感神経の過覚醒では、緊張、痛み、線維筋痛症、レイノー症候群をはじめとする「冷たい手」によって代表される血管収縮、多汗症、動悸などが見られます。
一方、迷走神経作用による低覚醒では、慢性疲労、過敏性腸症候群、逆流性食道炎、心拍と血圧の低下、失神、ふらつき、片頭痛がみられます。
これらの外来患者の70~90%は心理的要因によって引き起こされた症状を持つといわれています。
トラウマ的な出来事の間、アドレナリンの分泌によって扁桃体への血流が増加し、におい、音、身体感覚といった断片が非常に強く記憶されます。同時に言語、学習の長期記憶を司る領域への血流が減少するため、被害を受けていた感覚は細かく覚えていても、出来事を時系列に思い出せなくなります。
幼少期にトラウマを経験するとその記憶は身体と神経系に強く刷り込まれ(前言語記憶)、本人に理由が分からなくても強い感情、身体感覚、解離が生じる場合があります。
トラウマは「時間が解決してくれる」こともありますが、深く残ってしまう場合は専門的な治療が効果的です。
トラウマの治療法
トラウマは深刻な影響を与えますが、信頼性のある治療法が確立されています。特にトラウマに特化した心理療法をご紹介します。
✅ EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
↪眼球運動によって脳の情報処理システムを活性化させ、トラウマ記憶の再処理を行います。
✅ TSプロトコル
↪神経系に蓄積された緊張やトラウマ記憶を、身体への振動を利用して解放していきます。
✅ 認知処理療法(CPT)・持続エクスポージャー療法(PE)
↪トラウマによって歪んだ考え方を整理し、安全な形で記憶と向き合っていきます。
✅ 身体志向のアプローチ(ソマティック・エクスペリエンシングなど)
↪身体の感覚を大切にし、神経系の調整を促す方法です。心と身体のつながりを大切にします。
✅ 集団療法・対人療法
↪安全な対話と関係性を築くことによって、問題や感情の変化に気づいていきます。
✅ 薬物療法(必要に応じて)
↪症状が強い場合に用いられることもあります。心理療法と併用することで効果的とされています。
どのようなことがきっかけで敏感になるのか、どのようなときに不安定になるのかを探ることで効果的な対処法が得られます。
トラウマへの自己ケア
トラウマの影響が強いとき、自分だけで抱えるのはつらいものです。けれど、日々のセルフケアによって、回復の力を少しずつ高めることができます。以下に自分で出来るトラウマへの対処法をご紹介します。
✅ 安全な空間をつくる
自宅や安心できる場所で過ごす時間を意識的に確保しましょう。落ち着く音楽や香りを取り入れるのもおすすめです。
✅ リラクセーション法を取り入れる
腹式呼吸、漸進的筋弛緩法、マインドフルネス瞑想などが有効です。不安が強いときに気持ちを落ち着ける助けになります。
✅ 感情を書き出す
感じていることをノートに書いてみましょう。「こんなふうに感じてもいい」と自分に許可を出すことが大切です。
✅ 信頼できる人に話す
家族や友人、支援者に話すことで「ひとりじゃない」と感じられることがあります。話すことで感情が整理されることもあります。
スポーツや音楽などの趣味を楽しむことよって心身ともにリラックスし、ストレスやトラウマ症状の軽減が期待できます。サポートグループでは同じような体験をした人たちと交流することで、共感や励ましを得られトラウマを克服するための意欲が高まります。
トラウマ克服のポイント
トラウマ治療では『ゆっくり、確実に』が肝要です。玉ねぎの皮をむくように、回復は少しずつ進んでいくものです。症状が変わらないと感じていても、あなたの中で変化は確実に生じています。
また、治療を進めていくとトラウマ体験を自覚するようになる、その出来事と向き合う場面もあり、そのために強い症状を感じることもあります。しかしそれは、感情体験を処理していくために必要なことであり前進でもあります。そして感情は安全な環境で表現していくと落ち着いていくもので、治療を進めていく中で必ず落ち着いてきます。
トラウマ症状の苦しみを抑えつけたり放置することは、トラウマの深刻化や社会生活への影響を招くことがあります。一人で悩まず、適切なアプローチ方法を選び、専門家と協力してトラウマ克服に向けた取り組みを進めていきましょう。
私たちは、トラウマの深さに寄り添いながら、あなた自身の力を取り戻すお手伝いをします。安心できる場所で、少しずつ、ご自身のペースで一緒に歩んでいきましょう。
心的外傷後成長(PTG)
研究では、重い病気や事故、災害、喪失、虐待などの強いストレス体験をした人々の多くが「回復」だけでなく「成長」も経験していることに注目しました。心的外傷後成長(Post-Traumatic Growth, PTG)とは、人生の危機やトラウマ的な出来事を乗り越えた後に、人間としての成長や変化を感じる心理的プロセスを指します。
「深く傷つきながらも、その体験と真剣に向き合った結果、以前よりも豊かな意味や価値を感じるようになった」という変容のあり方です。
PTGは単に「時間が経てば自然と起きる」ものではありません。多くの場合、以下のような内面的な葛藤や意味づけの作業を経て育まれます:
- なぜあんなことが起きたのか、どう向き合えばよいのかという問い直し
- 安全な環境の中での感情表出
- 他者との支え合いや対話
- カウンセリングやリラクセーションなどによる内省
Tedeschi & Calhounによると、PTGは以下の5つの領域に現れます:
成長領域 | 説明 |
---|---|
① 他者との関係の深まり | 共感力が増し、人との絆やつながりをより大切に感じるようになる。 |
② 新たな可能性の発見 | それまで考えていなかった生き方や選択肢に目を向けるようになる。 |
③ 個人的な強さ | 「自分は思ったよりも強かった」と自己肯定感が高まる。 |
④ 人生観の変化 | 価値観の変化。日々の生活や人生そのものに意味を見出すようになる。 |
⑤ スピリチュアルな気づき | 宗教的・哲学的な考えに触れ、人生の根源的な問いに向き合うようになる。 |
- トラウマを語り直す中で、「同じような人を支えたい」と思うようになった
- 災害や事故後、「生きているだけで価値がある」と感じるようになった
- 大切な人を亡くして、「人とのつながりをもっと大事にしたい」と変わった
このような変化は、悲しみや苦しみの先にある「意味の再構築」から生まれることが多いです。
トラウマ体験に左右されない、新しい自己の感覚を育成する機会。あなたが得たトラウマからの学びが、同じようにトラウマを背負った方々の希望になります。回復には、自己ケアも欠かせません。これからも、あなたの心と身体を大切に、優しくいたわってください。
「元に戻る」ことを目的とするものではなく、痛みや喪失の中から、自分なりの生き方を新たに形作っていく過程です。
PTGは、安全な対話・信頼関係・感情の表現と整理によって育まれます。
カウンセリングでは、PTGを視野に入れたトラウマインフォームドな支援を提供しています。ご希望の方は、お気軽にご相談ください。
よくある質問
- Qトラウマを克服するための最善の方法は何ですか?
- A
最善の方法は、その人に合ったアプローチ方法を選ぶことです。認知行動療法やEMDRなど、様々な方法がありますが、自分に合ったものを選ぶことが重要です。何が自分に合っているのか分からない場合もあります。そんな時はぜひカウンセラーにお尋ねください。
- Qトラウマを克服するために、どのような専門家の支援が必要ですか?
- A
心理療法士や臨床心理士、精神科医など、トラウマに特化した専門家の支援が必要です。また、サポートグループやカウンセリングなども、トラウマ克服のために役立ちます。
- Qトラウマ克服の過程で、進展が遅いときはどうすればよいですか?
- A
進展が遅い場合は、自分自身に対して厳しすぎず、無理をしないようにしましょう。「進展が遅い」と感じる事がトラウマの症状であったりします。急に良くなるという事は、何かを抑圧している可能性もあります。じっくり、しかし確実に改善していく事を目指しましょう。
- Qトラウマを克服した後、再びトラウマに戻ってしまうことはありますか?
- A
トラウマの影響は完全に消えることはありませんが、過去の出来事がトラウマにならないようにすることはできます。また、再びトラウマに戻ってしまうこともあるかもしれませんが、その場合は再び専門家の支援を受けることが必要です。ご自身でコントロールする術を身につけることで、トラウマに翻弄されず生活していくことが出来ます。
- Qトラウマについて話すことは、克服のために本当に役立ちますか?
- A
トラウマについて話すことは、その人によって異なりますが、多くの場合、克服のために役立ちます。話すことで、過去の出来事を整理し、感情を解放することができます。しかし、話すことがトラウマの強いトリガー(きっかけ)となる場合もあるため、個人差を考慮した上で話すことが重要です。
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