トラウマは「身体」に残る?

― 心と身体のつながりを公認心理師が解説 ―

「もう昔のことなのに、なぜか身体が反応してしまう」
「頭では大丈夫だと分かっているのに、不安や緊張が止まらない」

このような感覚を経験したことはないでしょうか。

実はトラウマは、単なる「記憶」として残るだけではなく、身体の反応として残ることがあると考えられています。

近年の心理学や神経科学の研究(例:神経科学者ベッセル・ヴァン・デア・コークの研究、ポリヴェーガル理論など)では、心の傷は脳や神経系、そして身体の感覚と深く関係していることが報告されています。

今回は、トラウマがどのように身体に影響するのかについて、公認心理師の視点からお伝えします。


トラウマが起きたとき、身体では何が起きているのか

人が強い恐怖や衝撃的な出来事を経験すると、脳の中にある扁桃体(へんとうたい)という部分が強く働きます。

扁桃体は、危険を察知する「警報装置」のような役割を持っています。

危険を感じると、身体はすぐに次のような反応を起こします。

✅ 心臓がドキドキする
✅ 呼吸が速くなる
✅ 筋肉が緊張する
✅ 強い警戒状態になる

これは「戦うか逃げるか(Fight or Flight)」と呼ばれる自然な反応で、命を守るための大切な仕組みです。

しかしトラウマ体験の場合、この反応が出来事が終わった後も身体に残ってしまうことがあると考えられています。

そのため、似たような状況や雰囲気に触れたときに、身体が自動的に警戒反応を起こしてしまうことがあります。

トラウマが身体に現れる例

心理学の研究や臨床の現場では、次のような反応が報告されています。

⚠️ 人の声が強くなると身体が固まる
⚠️ 電車や飛行機など、逃げにくい場所で強い不安を感じる
⚠️ 肩や首の緊張が続く
⚠️ 胃腸の不調や頭痛が起きる
⚠️ 理由の分からない動悸や不安が出る

これらは決して「気のせい」ではありません。身体が過去の危険を覚えていて、無意識のうちに警戒反応を起こしている可能性があります。

トラウマ研究では、これを「身体記憶(Body Keeps the Score)」と表現することがあります
(Van der Kolk, 2014 など)。

つまり、頭では忘れている出来事でも、身体が覚えていることがあると考えられているのです。

心だけでなく身体にも働きかける心理療法

こうした背景から、近年では心理療法の中でも

📌 身体感覚に気づくアプローチ
📌 自律神経を整えるアプローチ
📌 ソマティック(身体志向)アプローチ

などが注目されています。

これは、過去の出来事を言葉で整理するだけではなく、「今、身体で何が起きているのか」に意識を向ける方法です。

身体の緊張や感覚に気づきながら、安全な状態を少しずつ体験していくことで、神経系が落ち着いていく場合があります。

このプロセスを通して、身体が「今は安全だ」と学び直していくことが期待されています。

トラウマ反応は「弱さ」ではありません

カウンセリングの中でも、

「自分は弱いのではないか」
「どうしてこんなに敏感なのだろう」

と自分を責めてしまう方は少なくありません。しかし、トラウマ反応は弱さではありません。

それはむしろ、心と身体が生き延びるために働いてきた大切な反応でもあります。

身体が警戒するのは、それだけ過去に大変な体験があった証でもあるのです。そして、その反応は安心できる環境の中で、少しずつ変化していく可能性があります。

🌿最後に

もし今、理由の分からない不安や身体の緊張を感じている方がいたら、それはあなたの心と身体が長い間頑張ってきた証かもしれません。

トラウマは「意志の弱さ」や「性格」の問題ではなく、心と身体の自然な反応として理解されつつあります。

自分を責めるのではなく、まずは
「そういう反応が起きているのだ」
と優しく気づくことが、心の状態が落ち着いていくための第一歩になることもあります。

あなたの心と身体が、少しずつ安心を感じられるようになっていくことを願っています。


一般社団法人プラスワンライフでは、トラウマケアを含むカウンセリングを提供しています。沖縄を拠点に全国対応で、対面・オンラインなど柔軟にサポートしています。

「いま困っている症状の整理」からでも大丈夫です。一人で抱え込まず、ご相談ください。
➢ご相談予約はこちらから

よくあるご質問(FAQ)

Q
トラウマは時間が経てば自然に消えるのでしょうか?
A

トラウマの影響は、時間の経過とともに落ち着くこともありますが、必ずしも自然に消えるとは限りません。
強い体験の場合、記憶だけでなく身体の反応として残ることがあり、似た状況に触れたときに不安や緊張がよみがえることがあります。
そのような場合は、安心できる環境の中で体験を整理していくことが回復の助けになることがあります。

Q
トラウマが身体に現れることはありますか?
A

はい、あります。
トラウマ体験のあと、身体の緊張や自律神経の乱れが続くことがあります。

例えば
・動悸や息苦しさ
・肩や首の強いこり
・胃腸の不調
・理由の分からない不安

などが起きる場合があります。
これらは身体が危険に備えた状態を続けている可能性があります。

Q
トラウマは心理療法で回復することがありますか?
A

心理療法によって、トラウマ反応が和らぐことがあります。
カウンセリングでは、安心できる環境の中で体験を整理しながら、自分の感情や身体の反応に気づいていくことを大切にします。近年では、認知行動療法やトラウマ志向の心理療法、身体感覚に注目するアプローチなどが用いられることもあります。

Q
トラウマとパニック発作は関係していますか?
A

トラウマ体験の影響で、身体が危険を過剰に察知しやすくなることがあります。
その結果、動悸や息苦しさなどの強い不安反応が起き、パニック発作のような状態になる場合もあります。すべてのパニック症状がトラウマと関係しているわけではないため、個別の状況を丁寧に見ていくことが大切です。

Q
自分の反応がトラウマによるものか分かりません。
A

はっきりした原因が思い出せない場合でも、心や身体に反応が起きていることはあります。
無理に原因を探そうとするよりも、「今どのような感覚が起きているのか」に気づくことが大切な場合もあります。一人で抱え込まず、専門家に相談することで整理しやすくなることもあります。

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管理者

阿賀嶺 壮志(あかみね たけし)
1983年、沖縄生まれ
一般社団法人プラスワンライフ代表理事:公認心理師

精神科クリニックや学校現場で、15年にわたり心理支援・カウンセリングに携わってきた信頼と実績のあるカウンセラー。
幼少期の病弱さと孤独な経験から「ありのままの自分を受け止めてくれる存在」の大切さを深く実感し心理の道を志す原点となる。
教員時代の挫折や、言葉を超えた児童との心のつながりを通して、トラウマ支援への使命感を強めていった。

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