トラウマと深い関係がある不眠の正体

「眠りたいのに眠れない」
「夜になると身体が緊張してしまう」
「悪夢や途中覚醒が続いている」

このような不眠の悩みは、決して珍しいものではありません。
最近、私のもとにも「不眠」をきっかけにカウンセリングに来られた方がいらっしゃいました。

不眠というと、生活習慣やストレスだけが原因と思われがちですが、実際には トラウマ体験やPTSD(心的外傷後ストレス障害) が深く関係している場合もあります。
それは、心の弱さや気の持ちようの問題ではなく、脳と自律神経の働きによる自然な反応 です。

PTSDでは、過去のトラウマ体験が無意識のうちに繰り返し想起されるため、
身体は常に 緊張・不安が高い状態 に置かれます。

その結果、

  • 自律神経の調整がうまくいかない
  • 夜間も警戒心が下がらない
  • リラックスできない「過覚醒」状態が続く

という反応が起こります。

本来、睡眠には「安全だと感じられる状態」が必要ですが、
トラウマを経験した脳は 夜間でも危険を探し続けてしまう のです。

⚠️PTSDでは、なぜ眠れなくなるのか

PTSDの状態では、過去のトラウマ体験が意識・無意識の両方で繰り返し想起されやすくなります。
そのため、身体は「今も危険があるかもしれない」と判断し、緊張や不安が高い状態を保ち続けます。

本来、眠りにつくためには、心と身体が「安全だ」と感じられることが必要です。
しかしトラウマを経験した脳は、夜になっても警戒を解くことができず、リラックスできない“過覚醒”の状態 に陥りやすくなります。

この過覚醒状態が続くと、自律神経の調整がうまくいかなくなり、浅い眠りしか得られなくなってしまうのです。

トラウマとなり得る体験とは

トラウマは、命や存在の安全が脅かされた体験によって生じます。
代表的なものには、以下が含まれます。

  • 地震・津波・台風などの自然災害
  • 性的暴力、身体的虐待、家庭内暴力
  • 交通事故や重大な怪我
  • 戦争やテロの体験
  • 児童虐待・ネグレクト
  • 家族や大切な人の突然の死や別れ
  • 環境の過度な変化

同じ出来事でも、トラウマになるかどうかは人それぞれです。
同じ体験でも、心と身体がどのように受け取ったかによって、その影響は大きく変わります。
「自分の体験は大したことじゃない」と無理に否定する必要はありません。

🧠トラウマによる不眠の主なあらわれ方

トラウマに関連した不眠では、いくつかの特徴的な症状が見られます。

まず多いのが、布団に入ってからなかなか眠れない 入眠困難 です。
日中は抑え込めていた記憶や感情が、静かな夜になると一気に浮かび上がり、頭が休まらなくなります。

また、夜中に何度も目が覚めてしまう 中途覚醒 もよく見られます。
特にPTSDのある方では、レム睡眠の最中に覚醒が起こりやすいことが報告されています。

さらに、悪夢やフラッシュバック も大きな特徴です。
PTSDのある方の約半数以上が悪夢を経験するとされており、発汗や動悸、うなされる様子、寝言などを伴うこともあります。
その恐怖から、眠ること自体を避けるようになってしまう方も少なくありません。

そのほかにも、早朝に目が覚めてしまう、些細な音に過敏になる、常に緊張が抜けないといった状態が続きます。
こうした睡眠の乱れは、日中の集中力低下や強い疲労感、イライラ、不安感の増加へとつながっていきます。

PTSDのある方には睡眠時無呼吸症 が併存することもありますので、必要に応じて検査・治療を行うことが重要です。

トラウマによる不眠への治療的アプローチ

トラウマによる不眠には、いくつかの有効な治療法があります。

心理療法の中で中心となるのが、認知行動療法(CBT) です。
PTSDに対しては、トラウマ体験に結びついた考え方や反応を丁寧に整理し、安全感を回復していく「認知処理療法(CPT)」が行われます。

また、不眠そのものに対しては CBT-I(不眠症に対する認知行動療法) が第一選択とされています。
CBT-Iは、睡眠薬よりも長期的な効果が期待でき、副作用がほとんどない点が大きな特徴です。
治療を通して、眠りを支えるスキルを身につけていくため、治療終了後も効果が持続しやすいとされています。

薬物療法は、症状が強い場合に補助的に用いられることがあります。
ただし、睡眠薬には依存や耐性、翌日の眠気などのリスクがあるため、長期的な使用には慎重な判断が必要です。

🌙日常でできるセルフケアと睡眠環境の整え方

治療と並行して、日常生活の中で睡眠を支える工夫も大切です。
就寝・起床時間をできるだけ一定に保ち、寝室を「安心できる場所」として整えることが基本になります。

また、就寝前のカフェインやアルコールを控え、スマートフォンやテレビから距離を取ることで、脳を休ませやすくなります。
深い呼吸や軽いストレッチなど、身体をゆるめる習慣を取り入れることも、過覚醒の緩和に役立ちます。セラピストと一緒にリラクゼーション法を学び、自分のペースで行っていくことも有効です。

いつ専門家に相談すべきか

不眠が数週間以上続き、日常生活に支障が出ている場合や、悪夢やフラッシュバックが頻繁に起こる場合には、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

アルコールや市販薬による自己対処を続けてしまうと、症状が悪化したり、自殺念慮のリスクが高まることもあります。
一人で抱え込まず、適切な支援につながることが大切です。

トラウマによる不眠は回復できます

トラウマと不眠には、医学的にも心理学的にも深い関連があります。
PTSDを経験した方の多くが睡眠の問題を抱えますが、適切な治療と支援によって回復は十分に可能 です。

眠れない状態は、あなたの弱さではありません。
それは、心と身体が懸命に守ろうとしてきた結果なのです。

安心を少しずつ取り戻していく中で、眠りは自然と戻ってきます。
必要なときには、どうか専門家の力を借りてください。

よくあるご質問(FAQ)

Q.不眠は性格や気の持ちようの問題なのでしょうか?

A.いいえ、不眠は性格や意志の弱さによるものではありません。
特にトラウマや強いストレスを経験した方の場合、脳や自律神経が「危険に備える状態」を続けてしまい、眠ろうとしても身体がうまく休めなくなります。
眠れないのは努力が足りないからでもなく、心と身体の自然な反応です。


Q.トラウマがあると、なぜ夜に症状が強くなるのですか?

A.日中は仕事や家事、人との関わりによって注意が外に向いていますが、夜になると刺激が減り、内側に意識が向きやすくなります。
その結果、抑え込まれていた不安や記憶、身体感覚が浮かびやすくなり、緊張が高まってしまうのです。
また、トラウマを経験した脳は「夜=無防備になる時間」と感じやすく、警戒心が強まることも関係しています。


Q.睡眠薬を使わずに、不眠は改善できますか?

A.状態によっては可能です。
不眠症に対しては、認知行動療法(CBT-I)という心理療法が第一選択とされており、薬を使わずに睡眠の質を改善できるケースも多くあります。
一方で、症状が強い時期には医師と相談のうえで一時的に薬を使うことが助けになる場合もあります。
大切なのは、「薬」か「心理療法」かの二択ではなく、今の状態に合った方法を選ぶことです。


Q.悪夢が続いているのですが、これは治るのでしょうか?

A.はい、回復は可能です。
トラウマに関連した悪夢は、脳が未処理の体験を整理しようとする過程で起こることがあります。
トラウマケアやCBT-Iを通して安全感が高まると、悪夢の頻度や強さが徐々に和らいでいくことが多く報告されています。
「一生このままなのでは」と不安になる方もいますが、適切な支援によって変化は起こります。


Q.昼寝をすると、夜の睡眠に悪影響がありますか?

A.短時間であれば、必ずしも悪影響になるとは限りません。
15〜30分程度の短い昼寝は、疲労回復に役立つこともあります。
ただし、夕方以降や長時間の昼寝は夜の入眠を妨げやすくなるため、注意が必要です。
ご自身の睡眠リズムを見ながら調整していくことが大切です。


Q.どのタイミングでカウンセリングや医療機関に相談すればいいですか?

A.「眠れない状態がつらい」「生活に支障が出てきた」と感じた時が、一つの目安です。
不眠が数週間以上続いている場合や、悪夢・フラッシュバックが頻繁に起こる場合、アルコールや市販薬に頼り始めている場合は、早めの相談をおすすめします。
症状が重くなる前に支援につながることで、回復までの道のりが穏やかになることも少なくありません。


Q.トラウマのことを話すのが怖いのですが、それでも相談して大丈夫ですか?

A.もちろん大丈夫です。
トラウマ専門のカウンセリングでは、無理に体験を話すことを求めることはありません。
まずは「今、何がつらいのか」「身体や睡眠にどんな影響が出ているのか」から丁寧に扱っていきます。
話すペースや深さは、ご本人の安全と安心を最優先に進められます。

管理者

阿賀嶺 壮志(あかみね たけし)
1983年、沖縄生まれ
一般社団法人プラスワンライフ代表理事:公認心理師

精神科クリニックや学校現場で、15年にわたり心理支援・カウンセリングに携わってきた信頼と実績のあるカウンセラー。
幼少期の病弱さと孤独な経験から「ありのままの自分を受け止めてくれる存在」の大切さを深く実感し心理の道を志す原点となる。
教員時代の挫折や、言葉を超えた児童との心のつながりを通して、トラウマ支援への使命感を強めていった。

管理者をフォローする
こころの痛みと治療法ブログ一覧
シェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました