「変わりたい」と思う心の奥で起こっていること 〜チェンジトークとトラウマ回復の関係〜

「このままではいけない」「変わりたい」と感じる瞬間があります。
その一方で「でも、怖い」「うまくいく自信がない」という気持ちも同時に湧いてくることがあります。

この“行きつ戻りつする心”を、心理学では両価性(アンビバレンス)と呼びます。
トラウマ治療やカウンセリングの場でも、この両価性はとても自然なプロセスとして現れます。


「チェンジトーク」とは、簡単に言えば“変化を肯定する自分自身の言葉”のことです。
たとえば、

  • 「このままではだめだと思う」
  • 「もっと前に進みたい」
  • 「少しでも良くなりたい」

といった発言がそれにあたります。

心理学的には、こうした言葉が多く出てくるほど、実際に人が変化していく可能性が高まることが研究で示されています。
つまり、“言葉にすること”自体が、心の変化を後押しするのです。


トラウマを抱えた方の多くは、心のどこかで「変わりたい」と思っていながらも、もう一方で「変わるのが怖い」「このままでいた方が安全」と感じています。
この「安全でいたい」という気持ちは、心が自分を守ろうとする自然な反応です。

だからこそ、私たちカウンセラーは「変われない理由」ではなく、「変わりたい気持ち」に光を当てていきます。
それがチェンジトークを育てるということです。

クライエントの方が、「また少し歩けそうです」と言葉にできたとき——
それは、小さな一歩であっても、確実に“変化の丘”を登り始めているサインです。


チェンジトークは、大きく次の2つに分けられます。

① 準備のチェンジトーク(DARN)

変化の準備を整えていく段階です。
ここでは次のような気持ちや言葉が出てきます。

  • Desire(願望):「もっと楽に生きたい」「変わりたい」
  • Ability(能力):「やればできるかもしれない」
  • Reason(理由):「このままでは家族に心配をかける」
  • Need(必要性):「今こそ変わらなければ」

この段階は“心の助走”のようなもの。まだ行動には移せなくても、変化への方向が定まり始めています。


② 実行のチェンジトーク(CATs)

心の準備が整い、行動が伴い始める段階です。

  • Commitment(約束):「次回までにこれを試してみます」
  • Activation(意欲):「そろそろ始めてみようかな」
  • Taking Steps(実行):「実際に○○をしてみました」

こうした言葉が出てきたとき、変化はもう始まっています。
トラウマ治療では、この“実行のチェンジトーク”を支える安全な関係性がとても大切になります。


「でもやっぱり怖い」「できる気がしない」
こうした発言は“維持トーク”と呼ばれ、現状を保とうとする心の声です。

維持トークが出るということは、心の中で“変わりたい自分”と“変わりたくない自分”が対話している証拠です。
無理に否定する必要はありません。
むしろ、それもあなたの心が誠実に自分を守ろうとしているサインです。

カウンセリングの中での変化の道のりは、“丘を登るようなもの”といわれます。
最初は少し息が切れるかもしれません。
ときには立ち止まったり、後戻りしたりすることもあるでしょう。

けれど、確実に一歩ずつ、自分のペースで登っていけば、
やがて“見える景色”が変わっていく瞬間が訪れます。

その歩みを支えるのが、チェンジトークという「心の言葉」です。


「変わること」は、決して“無理に前へ進むこと”ではありません。
まずは、あなたの中にある“変わりたい”という声に気づいていきましょう。

プラスワンライフでは、その小さな声を大切に受け止めながら、
安心して自分を取り戻していけるようサポートしています。

トラウマの痛みや生きづらさを抱えている方へ——
あなたの中にも、静かに芽生えている“チェンジトーク”があります。
その声を一緒に聴いていくことが、回復への第一歩です。

私自身も、変化には恐怖を感じることがあります。そんなときは、大きな変化ではなく、生活の中に小さな変化をちりばめて『変化慣れ』を意識しています。
道順や食べるもの、服のセンスなど、すぐに取り入れられる小さな変化です。こうした積み重ねによって、脳に『変化しても大丈夫』という感覚を覚えさせていきます。
また、変化の先にあるポジティブな体験にも注目すると効果的です。

『変化によって得られたこと』と『変化しなければ得られなかったこと』の両方に焦点を当てることで、変化への不安を少しずつ和らげることができます。

20代の時に、勤めていた病院を3日で退職したことがあります。その時は「始めたらやり抜かなければならない」という固定観念が強くあり、自分を責めたりもしました。しかしその決断の後、少しずつですが「自分を大切にできた」という心の変化にもつながりました。

人生に変化はつきものです。自分を大切にできる変化を歩んでいきたいですね。


Q1. 「変わりたいけど怖い」という気持ちが強くて行動に移せません。これは普通ですか?
A1. はい、とても自然なことです。心理学ではこの状態を「両価性(アンビバレンス)」と呼びます。変化を望む気持ちと現状に留まりたい気持ちが同時に存在するのは、心が自分を守ろうとしている証拠です。無理に行動しようとせず、まずは自分の中の「変わりたい気持ち」に注目してみましょう。


Q2. チェンジトークって、具体的にどんなことを言えばいいのでしょうか?
A2. チェンジトークとは“自分の変化を肯定する言葉”です。例えば、「少しでも前に進みたい」「このままではだめだと思う」「変わってみようかな」といった小さな言葉も立派なチェンジトークです。言葉にすることで、心の中で変化への準備が整いやすくなります。


Q3. トラウマがある場合、チェンジトークはすぐに出てきますか?
A3. 人によってタイミングはさまざまです。最初は「怖い」「できる気がしない」という維持トークが多くても自然です。カウンセリングでは、まず小さな「変わりたい気持ち」を見つけ、安心できる関係性の中で少しずつチェンジトークを育てていきます。


Q4. チェンジトークには段階があるそうですが、どういう意味ですか?
A4. チェンジトークには2つの段階があります。

  • 準備のチェンジトーク(DARN):心の中で変化の方向性を整える段階。願望・能力・理由・必要性の言葉が出てきます。
  • 実行のチェンジトーク(CATs):実際に行動を伴う段階。約束・意欲・実行の言葉が出ると、変化が現実化し始めます。
    どちらの段階も、変化のプロセスでは重要なサインです。

Q5. 「怖い」「やっぱり無理かも」と思うときはどうすればいいですか?
A5. その気持ちは“維持トーク”と呼ばれ、心が自分を守ろうとする自然な反応です。無理に否定する必要はありません。維持トークも含めて自分の心の声として受け止め、少しずつ自分のペースでチェンジトークを育てていくことが大切です。


Q6. チェンジトークを意識するだけで本当に変われますか?
A6. 言葉にすること自体が、心の変化を後押しする科学的に示された方法です。小さな一歩でも、言えるようになると、心の中で変化のプロセスが進み始めています。焦らず、自分のペースで進めていきましょう。


Q7. 自分一人でチェンジトークを育てることはできますか?
A7. 可能ですが、トラウマがある場合や不安が強い場合は、安心して話せる相手と一緒に進める方が安全です。カウンセリングでは、維持トークも尊重しながら、チェンジトークを少しずつ引き出すサポートを行います。

管理者

阿賀嶺壮志(アカミネタケシ)1983年沖縄生まれ。
一般社団法人プラスワンライフ代表理事・公認心理師。精神科クリニックと学校現場において10年以上にわたる心理支援・カウンセリング経験を重ねてきた信頼のカウンセラー。幼少期の病弱で孤独な体験から「ありのままの自分を受け止めてくれる存在」の大切さを深く実感し、心理の道を歩む原点に。教員時代の挫折と児童との思いがけないつながりも、トラウマ支援への志へとつながっています。
2019年に「トラウマ治療専門カウンセリングルーム」を開設。統合的な心理療法と自然療法を組み合わせ、「元以上の状態へ」導く支援を理念としています。2021年には絵本『さばくと少年』を出版し、沖縄県内すべての小学校に配布されるなど、教育への貢献も続けています

管理者をフォローする
こころの痛みと治療法ブログ一覧
シェアする

コメント

タイトルとURLをコピーしました