「もっと頑張らなければ」が止まらない理由

― 努力しても安心できない心理とは

💦「まだ足りない」が消えない理由

心理カウンセリングでは、「もっと頑張らなければ」という思いから抜け出せない方に多く出会います。

その方々に共通しているのは、「努力していない人」ではないということです。

むしろ反対です。

真面目で責任感が強く、人から頼りにされることも多い。

仕事では期待に応えようとし、家庭では周囲を優先し、自分の時間を後回しにしながら頑張っています。

客観的に見れば十分なほど努力しているにもかかわらず、本人は「まだ足りない」と感じています。

「これくらいでは認められない。」

「もっと頑張らなきゃ。」

「まだまだ足りない。」

この感覚は、能力不足から生まれているわけではありません。

心の中にある「安心の基準」が、とても高い場所に置かれているのです。

そのため、どれだけ努力を重ねても、その基準に到達したようには感じられません。

まるでゴールが少しずつ遠ざかっていくような感覚です。

まるで、努力すればするほど自分に求めるものも大きくなってしまう雪だるまのよう…。

🔥 努力には二つの動機があります

心理学の視点から見ると、人が努力する理由は大きく二つあります。

一つは、好奇心や探究心から始まる努力です。

新しいことを知ることが楽しい。

できなかったことができるようになることが嬉しい。

もっと成長したい。

そんな気持ちが自然な原動力になっています。

このような努力は、自分の可能性を広げてくれます。

知らなかった世界に出会い、自分の人生をより豊かにしていくでしょう。

もう一つは、不安や不足感から始まる努力です。

「今の自分では足りない。」

「もっと頑張らないと認められない。」

「努力をやめたら価値がなくなる。」

そんな気持ちが努力の出発点になっています。

外から見ると、どちらも熱心に勉強し、仕事に励み、努力している人です。

しかし、その努力を支えている心はまったく違います。

好奇心から努力する人は、努力するほど自由になります。

一方、不安から努力する人は、努力するほど「もっと頑張らなければ」という思いが強くなってしまいます。

🚨「もっと頑張れば安心できる」は本当でしょうか

多くの人は、努力の先に安心があると考えます。

「昇進したら安心できる。」

「もっと収入が増えれば安心できる。」

「資格を取得したら自信が持てる。」

「周囲から認められたら、自分を好きになれる。」

もちろん、目標を持つことは悪いことではありません。

努力が人生を豊かにすることもたくさんあります。

しかし、「安心するため」に努力を続けている場合、その安心は長続きしないことがあります。

目標を達成した瞬間は嬉しい。

でも、しばらくすると新しい目標が現れます。

「もっと期待に応えなければ。」

「次はこれをしなければ。」

こうして安心は、いつも未来へと先送りされてしまいます。

そして、心には「まだ足りない」という感覚だけが残っていくのです。

ここで大切なのは、努力そのものが問題なのではないということです。

問題なのは、「安心するために努力し続けなければならない」と心が信じ込んでいる状態です。

努力は本来、自分の人生を豊かにするものです。

それが、自分を追い立てるものになってしまうと、どれだけ成果を出しても心は休まることがありません。

私も心理学の資格を取得した時は達成感を感じていました。しかしすぐに「私なんかが役に立てるのだろうか」という不安感が襲ってきました。

その不安感は努力をしたり前に進むためにある程度は必要なのかもしれません。しかし、あまりに大きい不安は前に進むのを阻んだり、身動きが取れなくなったりする可能性もあります。

また、好きでやっていたことが義務や強制されているように感じてしまい、本来の楽しみが感じられなくなることも懸念されます。

なぜ安心は未来へと逃げていくのでしょうか

発達心理学では、人は幼い頃の経験を通して、「自分はどのような存在なのか」「どうすれば安心できるのか」を少しずつ学んでいくと考えられています。

しかし、幼少期に繰り返し次のような経験をすると、「安心には条件がある」という感覚が育ちやすくなります。

「もっと頑張りなさい。」

「いい成績を取りなさい。」

「失敗してはいけない。」

「人に迷惑をかけてはいけない。」

こうした経験が積み重なると、「そのままの自分でいても大丈夫」という感覚よりも、「努力している自分なら安心できる」という感覚が強くなることがあります。

その結果、大人になっても、努力をやめることに不安を感じたり、休むことに罪悪感を覚えたりすることがあります。

🌞 まずは「努力している自分」に気づくことから

この記事を読んで、

「自分もそうかもしれない。」

そう感じた方もいるかもしれません。

もしそうだとしても、自分を責める必要はありません。

「もっと頑張らなければ。」

その気持ちは、これまで一生懸命生きてきたからこそ生まれたものかもしれません。

だから最初に必要なのは、努力をやめることではありません。

「私はもう十分頑張っている。」

その事実に気づくことです。

そこから初めて、「安心感」という新しい土台を育てる準備が始まります。

次回は、「安心感」がどのように育つのかを考えます

では、その安心感はどこから生まれるのでしょうか。

生まれつき決まっているものなのでしょうか。

それとも、大人になってからでも育てることはできるのでしょうか。

次回は、幼少期の経験や愛着との関係も踏まえながら、「安心感」がどのように育っていくのかについてお話ししたいと思います。


(第2回へ続く)

管理者

阿賀嶺 壮志(あかみね たけし)
1983年、沖縄生まれ
一般社団法人プラスワンライフ代表理事:公認心理師

精神科クリニックや学校現場で、15年にわたり心理支援・カウンセリングに携わってきた信頼と実績のあるカウンセラー。
幼少期の病弱さと孤独な経験から「ありのままの自分を受け止めてくれる存在」の大切さを深く実感し心理の道を志す原点となる。
教員時代の挫折や、言葉を超えた児童との心のつながりを通して、トラウマ支援への使命感を強めていった。

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