トラウマとは何か──幼少期の体験が“今の生きづらさ”に影響する理由

なぜ、過去の出来事が今も苦しいのか

「人との距離感がわからない」「つい頑張りすぎてしまう」「安心できる人がいない」──。
こうした“生きづらさ”を抱える方は少なくありません。
その背景には、トラウマ(心の傷)が関係していることがあります。

トラウマという言葉を聞くと、事故や災害、虐待などを思い浮かべる方が多いかもしれません。
けれど実際は、「心が耐えきれない、つらい出来事」であればどんな経験もトラウマになり得ます。
そしてその影響は思い出の中ではなく、今この瞬間の私たちの心や体に深く残るのです。


トラウマは、単なる「記憶」ではありません。
脳の防御反応として、心が「これ以上感じると壊れてしまう」と判断したとき、
感情や記憶が“凍りつく”ように切り離されます。冷凍保存された状態です。

そのため、時間が経っても似たような場面に出会うと、
体が緊張したり、強い不安に襲われたりします。
これは「弱いから」ではなく、心があなたを守ろうとしている自然な反応なのです。

幼少期のトラウマが残りやすい理由

幼いころの私たちは、まだ言葉で自分の感情を整理したり、
誰かに「助けて」と伝えたりする力が十分ではありませんでした。

たとえば──
・親が忙しくて気持ちを受け止めてもらえなかった
・家の中で常に緊張していた
・何をしても認めてもらえなかった

こうした体験は、心の奥で「自分は愛されない」「自分は価値がない」という誤ったメッセージとして残り、
その後の人間関係や自己評価に影響を与えることがあります。

心理学ではこれを愛着トラウマ小児期逆境体験(ACEs)と呼びます。
見えないけれど、深く私たちの人生に影響を及ぼす“心の記憶”です。


私自身も、かつて“どうしても報われない感覚”に戸惑っていた時期がありました。
努力しても思うようにいかず、目の前が真っ暗になったとき、
ある生徒から手紙をもらったのです。

その生徒は、言葉で気持ちを表現するのが難しい子でした。
けれど手紙には、こう書かれていました。

「先生と会えてよかった。もっとおしゃべりしたかった」

その瞬間、気づいたのです。
人は言葉だけでつながるのではない。
存在そのものが、人を支えることがある。

それは、私自身がかつて祖父に“ただ受け止めてもらった”経験と重なりました。
「何もできない私でも、誰かを支えられる」──
その気づきが、今の心理カウンセラーとしての原点になりました。

トラウマからの回復とは、“記憶を消すこと”ではない

トラウマからの回復は、過去を忘れることではありません。
それは「もうあの出来事は自分を支配していない」と感じられる状態へと変化することです。

安心できる関係の中で、
感じることを少しずつ許し、言葉にしていく。
その積み重ねの中で、
凍りついていた感情が少しずつ“温まり”、
自分の物語を取り戻していくのです。

心理療法ではこれを「再体験による再統合」と呼びます。
怖さの先に、自己理解と再生が待っています。


トラウマは、決して弱さではありません。
それは、あなたがどれほどの痛みに耐え、
生き抜いてきたかの証でもあります。

過去の出来事を消すことはできません。
けれど、その出来事の意味を変えることはできます。

「あの経験があったからこそ、人の痛みがわかるようになった」
「あの苦しみが、今の自分を支えている」

そう思える瞬間は、必ず訪れます。
どうか焦らず、あなたのペースで。
心はいつでも、回復する力を持っています。

もしあなたが今、苦しさを感じているなら

一般社団法人プラスワンライフでは、
幼少期のトラウマや愛着の課題を専門に扱い、
一人ひとりのペースに合わせた心理カウンセリングを行っています。

「うまく話せない」「言葉にできない」──そんな方でも大丈夫です。
言葉の奥にある“あなたの声”を一緒に聴いていきましょう。

よくあるご質問(Q&A)

Q
トラウマは誰にでも起こるものですか?
A

はい、トラウマは特別な人だけに起こるものではなく、誰にでも起こりうるものです。
大切なのは、「自分は弱いからこうなった」ではなく心が身を守るために働いた自然な反応だということ。誰もが生きる中で何かしらの痛みや傷を抱えています。そして、ゆっくりと癒えていく力も、同じように私たちの中にあります🌿

Q
トラウマの原因になる出来事にはどんなものがありますか?
A

たとえば、事故や災害などの大きな出来事だけでなく、人との関係の中で感じた「怖さ」「孤独」「無力感」など、心が受け止めきれなかった経験もトラウマにつながることがあります。一見「よくあること」にも見える出来事でも心の深くに影響を残すことが分かっています。“何が起きたか”よりも“どう感じたか”が重要です。

Q
トラウマは自然に治るものですか?
A

軽いストレスであれば自然に回復することもありますが、強いトラウマや幼少期の体験に関わる場合は、安心できる環境と専門的なサポートが必要です。
カウンセリングでは、過去を無理に掘り起こすのではなく、今ここにある「安心感」から少しずつ癒しを進めていきます。

Q
トラウマ治療ではどんなことをするのですか?
A

過去の出来事を無理のないペースで整理し、心が止まってしまったところに少しずつ温かさを取り戻していく──そんなプロセスがトラウマ治療です。心理療法では、次のような方法が使われます。

  • 感情を感じても大丈夫だと体験を通して学ぶ。
  • 安全な関係を築く(安心感を取り戻す)
  • 思考や体の反応を理解し、コントロールできるようにする
  • 体の反応に注目するアプローチ(ソマティック・エクスペリエンシングなど)
    一人ひとりの背景に合わせて丁寧に進めていきます。
Q
「話すのが怖い」「うまく言葉にできない」ときはどうすればいいですか?
A

話せないことも、立派な“サイン”です。
無理に言葉にしようとせず、「話せない」という気持ちをそのまま伝えてください。
カウンセラーは、言葉にならない思いも受け止める訓練を受けています。
安心できる時間を重ねることで、自然と心が語り始めます。

Q
トラウマを抱えていても幸せになれますか?
A

もちろんです。
トラウマの記憶は消えませんが、その意味を変えることはできます。無理に「前向きにならなければ」と思う必要はありません。
まずは安心できる関係や環境の中で、自分のペースで心を回復させることが大切です。
癒しのプロセスは決して後ろ向きではなく、「新しい人生の始まり」でもあります。

管理者

阿賀嶺 壮志(あかみね たけし)
1983年、沖縄生まれ
一般社団法人プラスワンライフ代表理事:公認心理師

精神科クリニックや学校現場で、15年にわたり心理支援・カウンセリングに携わってきた信頼と実績のあるカウンセラー。
幼少期の病弱さと孤独な経験から「ありのままの自分を受け止めてくれる存在」の大切さを深く実感し心理の道を志す原点となる。
教員時代の挫折や、言葉を超えた児童との心のつながりを通して、トラウマ支援への使命感を強めていった。

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