「消える痛みと心に残る痛み|心理カウンセラーが解説する違いと心のケア

私たちの心には、時として忘れられない体験があります。それは小さな心の傷だったり、深く刻まれた辛い記憶だったりします。心理学ではこれを「トラウマ」と呼びます。

でも、同じように辛い体験でも、時間とともに心から消えるものもあれば、ずっと残り続けるものもあります。今回は、なぜ「消えるトラウマ」と「残るトラウマ」があるのか、心理学と臨床の視点から解説します。


🔹 消えるトラウマとは?

消えるトラウマは、時間の経過や環境の変化によって自然に記憶の影響力が弱まるものです。

  • 例:子どもの頃の軽い失敗や恥ずかしい体験
  • 特徴:思い出しても心の動揺が少なく、日常生活にほとんど影響を与えない

心理学的には、「安全な環境で安心感が得られた」場合に消えやすいと言われています。安全な人間関係や自己肯定感の回復は、心がトラウマを「処理」するために必要です。


🔹 残るトラウマとは?

一方、残るトラウマは、強烈な恐怖や無力感、理不尽な体験が心に刻まれたものです。

  • 例:虐待、重大な事故、戦争体験、重大な裏切り
  • 特徴:思い出すたびに身体的・感情的反応が強く出る(動悸、震え、強い不安など)

臨床心理学では、「心が危険信号を過剰に学習した状態」と説明されます。脳は過去の危険を忘れず、同じ状況に遭遇した際に再び身を守ろうとするため、トラウマ反応が強く残るのです。


🔹 なぜ同じ体験でも差が出るのか?💬

消えるトラウマと残るトラウマの違いには、いくつかの要因があります。

  1. 体験の強度
    • 強い恐怖やショックは脳に深く刻まれ、忘れにくくなります。
  2. 支えとなる人や環境の有無
    • 安心できる関係や支援があると、心は回復しやすくなります。
  3. 自己理解や心理的資源の有無
    • 自己肯定感やレジリエンス(心の回復力)が高い人は、トラウマを受け流す力が育ちやすいです。

🔹 トラウマを「消す」ためにできること 🌱

残るトラウマも、適切な心理的アプローチで軽減や整理が可能です。

  • 心理療法(認知行動療法・EMDRなど)
    過去の体験を安全な環境で整理し、心の負担を減らします。
  • 安全な人間関係の構築
    信頼できる人との対話や支えは、心の回復力を高めます。
  • セルフケア・マインドフルネス
    今ここに意識を向け、過去の記憶に過剰に巻き込まれない練習です。

トラウマは「消えるもの」と「残るもの」がありますが、どちらもあなたの人生を否定するものではありません

残るトラウマは心に重く感じますが、適切な支援やケアを受けることで、その影響を軽減し、心の強さと成長に結びつけることが可能です。

あなたの心は、一人ではありません。
安全な環境で話すこと、専門家に相談することは大きな第一歩です。少しずつ心を軽くしていきましょう。

Q&A|消えるトラウマと残るトラウマ

❓ Q1. トラウマは時間が経てば自然に消えるものですか?

💬 A1.
一部のトラウマは、安心できる環境や支えの中で徐々に和らいでいきます。
しかし強烈な恐怖や無力感を伴った体験は、脳が「再び同じことが起きないように」と危険信号を記憶し続けるため、時間だけでは解決しにくい場合もあります。
大切なのは「自然に消えるものもあれば、支援が必要なものもある」と理解することです。


❓ Q2. 残るトラウマは一生消えないのでしょうか?

💬 A2.
「完全に消す」ことは難しい場合もありますが、心理療法や安心できる対話を通して、心の負担を軽くすることは可能です。
例えば EMDR(眼球運動による脱感作)認知行動療法 は、科学的にも効果が確認されています。
「消すこと」よりも、「持っていても生きやすくなること」を目指すと心が楽になりますよ。


❓ Q3. 同じ体験をしても、なぜ人によって残る人と消える人がいるのですか?

💬 A3.
同じ出来事でも、人によって心に残る度合いが違うのはとても自然なことです。
それは「心の強さ」の差ではなく、体験したときの状況や、その後どんな支えがあったかによって変わるのです。
また、人それぞれ心の感じ方や敏感さも異なります。敏感だからこそ深く傷つくこともありますが、それは同時に人の痛みに気づける優しさにもつながります。ですから「なぜ自分だけ消えないのだろう」と責める必要はありません。あなたの反応は、心が健気に守ろうとしている証でもあるのです。


❓ Q4. 自分のトラウマが残っているのか、消えつつあるのか分かりません。どう見分けたらいいですか?

💬 A4.
基準のひとつは「思い出したときに、どのくらい心や体が反応するか」です。
思い出すたびに動悸・不安・涙などが強く出る場合は、まだ整理されていないサインかもしれません。
逆に「思い出しても落ち着いて振り返れる」なら、回復が進んでいる可能性があります。


❓ Q5. トラウマを持っていることは“弱いこと”ですか?

💬 A5.
いいえ、違います。
むしろトラウマは「それほどまでに心が深く影響を受ける体験をした証」です。
心理学の視点では、トラウマは“弱さ”ではなく“人間らしさの証”。
その経験を通じて、自分や他者への理解が深まることも多いのです。


❓ Q6. トラウマに苦しんでいるとき、今すぐできることはありますか?

💬 A6.

  • 安全な環境を確保する(安心できる場所・人と過ごす)
  • 深呼吸やマインドフルネスで「今ここ」に意識を戻す
  • 辛さを言葉にして誰かに伝える(信頼できる人・専門家へ)

これらは小さな一歩ですが、心を守る大切な力になります。

管理者

阿賀嶺壮志(アカミネタケシ)1983年沖縄生まれ。
一般社団法人プラスワンライフ代表理事・公認心理師。精神科クリニックと学校現場において10年以上にわたる心理支援・カウンセリング経験を重ねてきた信頼のカウンセラー。幼少期の病弱で孤独な体験から「ありのままの自分を受け止めてくれる存在」の大切さを深く実感し、心理の道を歩む原点に。教員時代の挫折と児童との思いがけないつながりも、トラウマ支援への志へとつながっています。
2019年に「トラウマ治療専門カウンセリングルーム」を開設。統合的な心理療法と自然療法を組み合わせ、「元以上の状態へ」導く支援を理念としています。2021年には絵本『さばくと少年』を出版し、沖縄県内すべての小学校に配布されるなど、教育への貢献も続けています

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